まちづくりシステムの解説・ビジョン
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まちづくりの歩み
まちへの危機感からはじまった
2016年から17年にかけて、大洲の城下町の町並みが一斉に取り壊しや新築、改築などが進む時期がありました。所有者の高齢化や相続、修繕費の増大などで、建物の維持管理が困難になってきたのです。更地にして駐車場になったり、他の所有者に売却や賃貸などを希望される方が後を絶たず、歴史ある建物が残りにくい環境となっていました。
これまで行政が中心となり景観維持に対する補助や規制を設けるなどしてきましたが、所有者や行政だけで保全することが難しい時代となってきました。広範囲にわたり大洲の町並みが失われると、城下町の歴史的風致がなくなるだけでなく、地域のアイデンティティを失いかねません。この事業はこうしたまちに対する危機感からはじまったのです。
大洲城下町の歴史的風致が感じ取れる建物の状況
歴史的資源を活用した観光まちづくりの研究
まちの歴史的な風景を残していくために、何から始めればよいのか。国では、すでに歴史まちづくり法(2008年)や地方創生法(2014年)の制定・施行がなされ、人口減少が進む地方において歴史的風致を残していくことが国としての大きな課題と認識されていました。そのような中、2016年9月には、内閣官房に「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」が設置され、2017年1月には専門家会議が発足していました。
2017年6月、地方創生を課題とする市役所職員(大洲市)と地域金融機関行員(伊予銀行)でまちを残していくための勉強会を立ち上げ、全国の事例調査を進めました。
調査を進めるなかで、兵庫県篠山市(現在の丹波篠山市)に極めて先進的な事例があることが分かりました。まちの中に「まちづくりビークル」と呼ばれる開発機能を組成し、分散型開発を進めて成果を上げていることが分かったのです。その概念を確立し、事業展開をしていた一般社団法人ノオトの代表理事金野幸雄氏(内閣官房専門家会議構成員)など専門家を大洲に招き、アドバイスを受けながら大洲のまちづくりの仕組みが作られていきました。
まちづくりシステムの構築
地域の未来への投資
2017年12月、地域未来投資促進法に基づく基本計画が大洲市と愛媛県とで策定され、6大臣(総務・財務・厚生労働・農林水産・経済産業・国土交通)の同意を得ることになりました。この基本計画は、城下町エリアの歴史的風致を維持・向上させていくために、歴史的資源を活用し、雇用者の給与増等を通じて地域内での経済の好循環を目指そうとするものです。
これまでの勉強会での成果や、YATSUGI活動、城下のMACHIBITOの成果を踏まえ、本格的に「事業」として取り組めるように国の支援などを受けながら官民連携による観光まちづくりが可能となる制度環境が整えられたのです。このような国の制度の後ろ盾を得ることで、民間事業者は公的なサポートを得ることができ、城下町に進出しやすくなります。また、歴史的資源に価値を見出し、地域の未来に投資していく、という地域の姿勢も明確になりました。
地域経済への波及効果を狙う
観光まちづくりにおいて、宿泊客がもたらす地域経済への波及効果を狙うことは極めて重要なことです。宿泊客の滞在時間は日帰り客よりも数倍長く、飲食をはじめとした消費額もその分大きくなります。結果として、域内の様々な産業への波及が生じ、まちの経済発展に寄与していくことになります。そのためには、宿泊の高付加価値化による消費額のアップとともに域内調達率を高めていく施策も重要となります。
観光まちづくりの戦略を立てる
地域への未来投資の方向性が定まると、具体的な観光まちづくり戦略が必要となります。「大洲市観光まちづくり戦略会議( 2017年7月発足、会長:大洲市長)」では、約1年間かけて戦略ビジョンについての検討が行われ、2019年2月その素案が取りまとめられました。戦略ビジョンでは、大洲市の観光まちづくりに対する理念の定義やSWOT分析がなされるとともに、ターゲットや主要事業が明確化されています。また、町家・古民家等の歴史的資源の活用について、町家活用エリア基本計画、同実施計画がまとめられ、まちづくりビークルとしてのDMOの組成も含めて戦略会議において実質的な事業計画が定められました。
大洲市観光まちづくり戦略会議の様子
官民での連携協定を締結
兵庫県篠山市の事例を参考に、大洲独自のまちづくりの仕組みを作っていく上で最も重要であったのが、官民の連携協定でした。2018年4月、バリューマネジメント株式会社、一般社団法人ノオト・株式会社NOTE、伊予銀行、大洲市で連携協定が締結されました。バリューマネジメント社は歴史的建造物を生かしたNIPPONIA HOTELなどの宿泊・レストラン事業を展開、NOTE社はこれまでに培ったノウハウを提供、伊予銀行は資金提供、大洲市はまちづくりビークルとなる地域DMO(観光地域づくり法人:現在のキタ・マネジメント)を設立することとしました。
事業の初動段階から「役割分担」を決定しておくことで、その後の事業がスムーズに進みます。官民連携事業においては、お互いの強みを生かし、モレなくダブりなく、シンプルに役割分担を定義していくことが重要と言えます。
まちづくりの仕組みをつくる
連携協定により、互いの強みを生かした役割分担を決定したのち作成したのが全体スキーム(仕組み)図です。役割分担を制度設計のフレーム(枠組み)に当てはめる作業となります。今回の場合、地域未来投資促進法による基本計画を軸に、地域再生計画(地方創生関係)、社会資本総合整備計画(歴史的風致関係)の制度設計に当てはめることになりました。このスキーム図は、左側の部分が町家の所有者など地域側、右側の部分が旅行者などの来訪者・消費者側となります。その間に、様々な事業者が加わり、まちの価値を途切れることなく消費者に届けていくことを表しています。地域経済牽引事業者と記載されている赤色の枠は、特に重要なエンジン部分となります。このエンジンに、上から民間資金(5億円)、下から公的資金(国2.5億円+市2.5億円)が注入され、まちの経済を回していくことになります。
また、2019年から22年までの4年間という短期間に集中して投資がなされてきたこともポイントです。建物の損傷が激しかったことも理由の一つですが、まちづくりの勢いが民間事業者にとって進出しやすい環境をつくり、ひいては持続的なまちの経営につながるのです。
観光地域づくり法人(DMO)の一般社団法人キタ・マネジメントは、まちづくりビークルとしての株式会社KITAを設置しています。歴史的建造物の改修・賃貸・管理に特化した事業を行うことで資金を調達しやすくしています。ここでも役割分担を明確化しています。