この大洲でのプロジェクトの難しさは、古い建物を建て直すのでも元に戻すのでもなく、今あるままの状態で残すということです。しかも、使いながら残していく動態保存が求められます。大洲城の天守復元や臥龍山荘の改修工事など、古建築の改修工事の経験は幾つかありましたが、古民家の保全・改修はそれとは方法が全く異なり、想像以上に手間も時間もかかる仕事です。
　それでもこうして携わっているのは、やはり建物自体が好きだからです。江戸・明治・大正・昭和の建物が点在する肱南の町並みを残していくためには、誰かがやらなければならない仕事であり、それはやはり地元の人間がやるべきだろうと思うのです。技の継承はもちろん、資源を活かしまちを豊かにする「感性を継承」していくことも、未来に向けて景観を維持する上で私たちの重要な役割だと思っています。